コロナからの復興企画~関西演劇を広める、広げる

関西えんげき大賞

第四回 関西えんげき大賞受賞作

<優秀作品賞>(五十音順)
  1. A級MissingLink『限定解除、今は何も語れない』
  2. 劇団五期会『歌姫』
  3. kondaba『棟梁ソルネス』
  4. 立ツ鳥会議 『そびれるしま』
  5. ニットキャップシアター『さらば、象』
  6. 兵庫県立芸術文化センタープロデュース『明日を落としても』
  7. 兵庫県立ピッコロ劇団『タラレバ幽霊とタカラの山』
  8. メイシアタープロデュース『MOTHER―君わらひたまふことなかれ』
  9. MONO『デマゴギージャズ』
  10. ロームシアター京都 レパートリーの創造 市原佐都子/Q『キティ』
<最優秀作品賞>
  • ニットキャップシアター『さらば、象』
<観客投票ベストワン賞>
  • ニットキャップシアター『さらば、象』
<ネクストドア賞>

第四回 関西えんげき大賞優秀作品賞選考経過

九鬼葉子

―2025年12月22日、大阪市天王寺区の一心寺文化事業財団企画室にてー

副賞の上演支援に横浜の若葉町ウォーフ(佐藤信代表)も協力

選考会冒頭、まず呼びかけ人代表の九鬼葉子から、第4回から副賞の上演支援に、佐藤信氏(劇作家・演出家)が代表を務める若葉町ウォーフがご参加くださることが報告された。50席の小劇場とレジデンス施設が併設された民間アートセンターで、もともと旅公演には「波止場の杭(パーリーナ)」という支援企画があるが、関西えんげき大賞優秀作品賞受賞10団体とネクストドア賞受賞者には、さらに減額。木曜から日曜までの4日間、劇場・楽屋・宿泊(2段ベッドの8人部屋)利用料すべてを含んで、16万2000円(税込)。これは4日間トータルの値段である。しかも楽屋=スタジオであり、舞台と同じ寸法での稽古も可能。劇場は1階にあり、搬入も便利。宿泊施設には、日当たりの良い広いリビングとキッチンもあり、申し分のない環境。関西演劇アーティストに、新しい励みの機会を頂いたことに感謝したい。同施設の詳細をご存じない方のため、授賞式では施設写真をスクリーンに映してご説明することも報告した。

優秀作品賞候補は46作品

さて、選考会であるが、事前に選考委員7名が、それぞれ2025年の1年間に鑑賞した関西の演劇作品の中から、10作品程度を推薦したリストをもとに、1作1作の魅力を語り合うところから始めた。選考委員は、梅山いつき、岡田蕗子、加美幸伸、九鬼葉子、永田靖、畑律江、広瀬依子。推薦のあった候補作は46作品である。 対象は、「関西の劇団」あるいは「関西発のプロデュース公演」であること。関西を拠点に活動する優れた演劇アーティストや、関西で制作された作品の魅力を、広く紹介して行くことが目的の賞である。他地域の劇団が、ツアーの一環として行った関西公演は含まれない。

<優秀作品賞候補作―46作品―>
安住の地『暗室』/iaku「はぐらかしたり、もてなしたり」/A級MissingLink『限定解除、今は何も語れない』/大阪大学中之島芸術センター演劇公演『沼に咲く青いヒナギク』/餓鬼の断食『スイッチ』/空晴『好きだったうた』/くじら企画『屋上のペーパームーン』/劇団大阪『夏の砂の上』/劇団大阪新撰組『砂時計書房、開店2周年』/劇団CLOUD9『ここで待ってる』/劇団五期会『歌姫』/劇団太陽族『横切るひとり、見つめるひとり、なにもない空間』/劇団タルオルム『おとうとが消えた日』/劇団タルオルム『4.24(サイサ)の風』/劇団未来『五人のアルベルティーン』/幻灯劇場『Waltz for Daddy』/コトリ会議きいの会『桃と夜の車』/kondaba『棟梁ソルネス』/虚空旅団『氷河の果てに』/サファリ・P『悪童日記』/THE ROB CARLTON『ENCOUNTERS with TOO MICHI』/スラステ『LIPSTICKS』/清流劇場『キュクロプスー貧民街の怪物』/空の驛舎『祝福』/立ツ鳥会議 『そびれるしま』/筒井潤『墓地の上演』/匿名劇壇『いいから早く助けてく』/突劇金魚『羊と祝祭』/中島らもをしがむ会『こどもの一生2025』/ニットキャップシアター『さらば、象』/万博設計『沈む。躍れ、ひとり』/兵庫県立芸術文化センタープロデュース『明日を落としても』/兵庫県立ピッコロ劇団『新天地へ~ある移民の物語~』/兵庫県立ピッコロ劇団『タラレバ幽霊とタカラの山』/兵庫県立ピッコロ劇団『火のようにさみしい姉がいて』/『FOLKER』/Plant Ⅿ連作公演『げきじょうのひ』#0#1/窓の階『ここはどこかの窓のそと2』/マシュマロテント『そのマンションは海底に建っていた』/マリヤの賛歌を上演する会『マリヤの賛歌―石の叫びー』/メイシアタープロデュースSHOW劇場『a次元のふたり』/メイシアタープロデュース『MOTHER 君わらひたまふことなかれ』/MONO『デマゴギージャズ』/南河内万歳一座『予言者・H』/よるべ『三角形の片隅は』/ロームシアター京都 レパートリーの創造 市原佐都子/Q『キティ』

新しい演劇の地平へ

毎年のことであるが、この中から絞っていくのは、困難を極める。どれも授賞にふさわしい作品である。目的は「関西演劇を広める、広げる」。つまり「この作品はとてもおもしろいので、再演される時はぜひ見てください」、あるいは「この劇団をもしまだご覧になったことがなければ、ぜひ新作を見てください」と、観客の皆様にお伝えしたい思いを込めた授賞である。その意味では、すべての候補作がそうだ。 そしてすでに過去に受賞している劇団の作品をどうするか。質の高い演劇作品を発表しているという意味では、毎年叶っている。ただそうなると、10作品の中に毎年、特定の劇団枠のようなものが生じてしまう。それでは「関西演劇を広める」という趣旨からはずれる。2回目以降の授賞については、目安として「第1回の受賞作品とはまた異なる、新たな演劇的地平へと飛躍された機会」としているが、その意味での作品分析の議論も続く。 その結果、最終候補として、Plant M『げきじょうのひ』#0#1、安住の地『暗室』、くじら企画『屋上のペーパームーン』、劇団タルオルム『4.24の風』、『FOLKER』、そして今回の受賞作10作が残り、計15作品を再論議の上、10作品が決定した。
2025年の優秀作品賞の特徴として、劇場プロデュースによる作品への授賞が3作並んだことが挙げられる。兵庫県立芸術文化センターが開館20周年、吹田市のメイシアターが開館40周年と、記念公演の年に当たり、そしてロームシアター京都が、レパートリーの創造シリーズ第8弾と、それぞれ長年積み上げたアーティストとの関係性を結集した、劇場の力と可能性を強く印象付けた年であった。また民間の劇場では、大阪市のウイングフィールドが「ウイング再演大博覧会」を継続中である。名作の再演を連続上演する企画だが、その中から今回はA級MissingLinkが受賞した。
2026年3月で閉館になる伊丹市立のアイホールでも熱演が続いた。長年お世話になった素晴らしい劇場への感謝の気持ちを込めて、関西の数々の劇団が連日上演。その中からニットキャップシアターが受賞した。そのように、劇場の大きな力が示された一方で、元・維新派のメンバーによるkondabaが初受賞。大阪市内の木工所跡地でイプセン作品を上演し、劇場でない場所を見事な劇的空間に仕立てた。色々な意味で、演劇の可能性を高めた年であったと言えよう。
ほかの最終候補の中では、PlantMの新シリーズ企画『げきじょうのひ』第1弾の評価も高かった。「人間」「争い」「創作」を長期的に見つめていく連作で、定員20名の限られた小空間で巨大な物語を紡ぐ試み。今後に期待が持たれた。他の集団も含め、今後の活動が楽しみである。

優秀作品賞10作の評価理由

  1. A級MissingLink『限定解除、今は何も語れない』

    災害や戦争を暗喩する神話的物語の中に、不確かな現実を活写した、土橋淳志作・演出の舞台。被災した方の悲しみを他者が語るのは僭越かもしれない。それでも別れと喪失の痛みを精一杯想像し、ともに生きたいと願う創作の態度には、説得力があり、時間が経てば経つほど、ひたひたと心に染み入る作品。

  2. 劇団五期会『歌姫』

    土佐清水の漁師町にある小さな映画館を舞台に、現代と昭和30年代の時間を行き交う宅間孝行戯曲。切ないラブストーリーの因果話を、井之上淳の演出で、情感溢れる舞台に仕上げた。若手とベテラン俳優の共演で、個性的な人物像とその関係性を、生き生きと造形した点が評価された。

  3. kondaba『棟梁ソルネス』

    元・維新派の石原菜々子と金子仁司による劇団。既存の劇場ではなく、街中に上演場所を探すのが特徴で、本作は大阪市東住吉区桑津の木工所跡地で上演。額縁舞台で上演されてきたイプセンの近代戯曲を、近代建築の廃墟で上演する批評性が秀逸。隅っこ人形劇団ニッチの協力・出演で、人形劇とリーディングを巧妙に組み合わせ、空間の特性を生かした遊び心たっぷりの演出が評価された。

  4. 立ツ鳥会議 『そびれるしま』

    郊外の一軒家を舞台に、現代と20年前の風景が交錯する、植松篤作・演出の舞台。若手俳優達の好演で、疎外された閉塞的な環境の中での人間関係と心の揺らぎ、孤独感が切実に伝わり、救済の余韻が残る。演劇だからこそできる表現を探求している点が評価された。

  5. ニットキャップシアター『さらば、象』

    伊丹市の市民提供による写真、エピソードをもとにしたごまのはえ戯曲を、小原延之が演出。ある家族の70年の生活史から町の歴史を顕在化。社会の大きな変化の中、地域に根差して生きる個人の営みに光を当てた。アイホールの優れた舞台機構を見事に生かした演出で、劇場に感謝を込めた。アイホールが象となって次の世界へと羽ばたいていくという、荒唐無稽なラストには希望が込められ、閉館するアイホールへのお別れの作品ではあるが、前向きで楽しい舞台に仕上がった点が評価された。

  6. 兵庫県立芸術文化センタープロデュース『明日を落としても』

    阪神・淡路大震災から30年。記憶を次世代につなぐため、兵庫県立芸術文化センターが開館20周年を記念して企画製作した舞台。ピンク地底人3号作、栗山民也演出。六甲山の山裾の旅館を舞台に、現代と30年前の風景が交錯。大切な人達を失い、あの日で時間が止まっている主人公が、大きな喪失と時間をかけて向き合い、再び前に進もうとする。その姿が、生き生きとした人間関係の描写とともに描かれた点が評価された。

  7. 兵庫県立ピッコロ劇団『タラレバ幽霊とタカラの山』

    谷口雅美・原竹志台本、原竹志演出によるファミリー劇場。「もしあの時~だったら」という仮定と後悔の言葉「タラレバ」。後悔ばかりしていると「タラレバ幽霊」になってしまうという怪談を背景に、大人にも子供にも訴えかける舞台に仕上げた点が評価された。戦争や震災など、歴史的な喪失から、日常的な後悔まで、多彩なタラレバが描かれ、観る者はそれぞれ自分史に重ねながら実感できた。子供達の悩みが次第にユーモアに転じ、俳優達の喜劇的演技も秀逸だった。

  8. メイシアタープロデュース『MOTHER―君わらひたまふことなかれ』

    吹田市のメイシアターが開館40周年記念としてプロデュース。大阪出身の歌人・作家の与謝野晶子と鉄幹夫婦を中心に、文学や社会変革に青春を燃やす若者達の姿を描いたマキノノゾミの戯曲を、内藤裕敬が演出。主演はキムラ緑子と升毅。1980年代以降の関西小劇場演劇ブームをけん引した顔ぶれを揃え、長年のプロデュース活動で培った演劇人との関係性の集大成とも言える、公共ホールの意欲作。関西のベテラン俳優と若手も共演、次世代につなげる出会いの場となった点も評価。愛情も社会問題も真剣に気持ちをぶつけあう者達の熱量を伝えた。

  9. MONO『デマゴギージャズ』

    SNSの普及で情報の真偽の判別が難しくなり、混迷する現代社会を、山間の古民家の騒動に象徴させて描いた新境地。土田英生作・演出。現代と明治初期の二つの時代を巧みに絡ませ、俳優達は、現代人と先祖の二役を演じ、弱さを抱える憎めない人物を生き生きと造形。なぜ人は嘘を信じるのか。圧倒的な笑いと間合いのセンスで見事に構築した。

  10. ロームシアター京都 レパートリーの創造 市原佐都子/Q『キティ』

    ロームシアター京都企画製作「レパートリーの創造」シリーズ第8弾。市原佐都子作・演出。生殖を管理される畜産、性も含めたあらゆるものの商品化、家父長制の歪み、そして「かわいい」という鎧を、女性達が着る呪縛の理由。多彩なテーマを集約し、それを肉屋のケースを表す赤い照明、日本語・韓国語・広東語がAI音声で再生される台詞など、斬新な手法でポップに、且つ毒のある舞台にまとめ上げた点が評価された。

ネクストドア賞の評価理由

副賞

1劇場を選び、上演支援を1回受ける ことができます。3年以内有効。

優秀作品賞
ウイングフィールド
(大阪市)
1日55,000円(税込み) 機材費無償
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費80パーセント(管理人件費55,000円 - 税込み - 実費) 及び稽古場の提供協力
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
利用料6日間250,000円(税別) 管理人件費・機材費無償 (電気代は実費)
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償
<上記に加え、関東圏で公演をされたい場合は次の利用も可>
横浜・若葉町ウォーフ
(神奈川県横浜市)
劇場・楽屋・宿泊(二段ベッドの8人部屋)の利用料
それらすべてを含め、(冷暖房費のみ別)
・週末木・金・土・日曜4日間トータルで162,000円(税込)
観客投票ベストワン賞
ウイングフィールド
(大阪市)
1日55,000円(税込み) 機材費無償
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費50パーセント(管理人件費55,000円 ‐ 税込み ‐ 実費)
及び稽古場の提供協力
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
利用料5日間200,000円(税別) 管理人件費・機材費無償(電気代は実費)
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償
最優秀作品賞
ウイングフィールド
(大阪市)
劇場費無償(人件費・電気代含む)
機材費のみ有償
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費無償(管理人件費55,000円 ‐ 税込み ‐ 実費)
及び稽古場の提供協力
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
劇場費・機材費無償
(管理人件費70,000円‐税別‐電気代実費)
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償

これまでのネクストドア賞

  1. 第四回(2025)受賞作